ルド不 R18 注意
「精液くさい」
そう吐き捨てるように言った不動博士に面食らう。
深夜にいきなりの呼び出しだったので、それまでプライベートな時間を過ごしていたルドガーは慌てて身支度を整えて研究室まで駆けつけるのが精一杯だった。
ついさっきまで別の相手に迫られ、流されるように口淫を受けていた。ここしばらく不動博士に触れられずに溜まりきってどうしようもなかった欲を都合よく吐き出していたのは事実だが、しかし――博士から呼び出しがあると知っていれば、そんな真似はしなかったものを。
なんというタイミングの悪さだ。
「私が、ですか」
「他に誰がいるんだ」
つかつかと目の前までやってきた不動博士はルドガーのシャツのボタンに手をかける。
「いつもきちんとした君がボタンをかけ違うなんて、ずいぶん慌てていたんだな」
あっと思う間もなくボタンがはじけとぶ勢いでシャツの合わせを開かれ、胸元から臍の下までが蛍光灯の元にさらされた。
「なるほど、お楽しみだったというわけだ」
胸の表面にいくつも散る鬱血の跡を見つけた不動博士は、不愉快だという表情を隠しもせずに、デスクのあたりに放置されていた消毒用エタノールの瓶を手に取ると、無造作にルドガーに向かってぶちまける。
「君が誰と何をしようとかまわないが、私の所に来るときはせめて痕跡を残さないでいてほしいね」
「は…申し訳ありま」
エタノールが滴り落ちるルドガーの濃い紫のシャツを掴んで引きよせると、博士はキスマークの上からきつく吸いついてきた。
「は…博士……っく」
「動くなよ、消毒をしているんだ」
ひとつひとつ上書きをするようにキスマークをなぞって吸い上げながら、そのくせルドガーが腕を伸ばせばその手を叩き落とす。
「動くなと言っただろう」
これは本気で怒っている。ルドガーはそう判断し、されるに任せた。
もし、博士がこれほど機嫌を損ねている理由が、いわゆる嫉妬という感情から来るものであるとするならば…そう思うと勝手に顔がにやけるのを止められない。
飄々とした不動博士は自分のことなど、研究のために役に立つ助手…ひどければ道具、くらいの認識であると思っていたし、事実それでかまわないと思っていたルドガーであったので、珍しく博士から示された執着めいた行動に、すっかりまいってしまっていた。
――少しは、私個人を気にしてくださるということか。
さざめくような歓喜が胸を満たしてゆく。
この「消毒」が終わったら、優しく抱きしめよう。不動博士が望むように抱いて差し上げよう。それが助手のつとめであり――私の望みだ。
そう思いながら、ルドガーはキスマークを辿ってゆく博士のくちびるを眺め続けた。
「消毒おわり」
実験の終了を宣言するような事務的な声で博士が宣言する。いくつも散らばったキスマークは二重に吸われたせいでだいぶひどくなってしまっていた。これはしばらく消えそうにないな。しかし博士の気持ちだと思えば。
「不動博士…すみません、私の落ち度でした」
そっぽを向いた不動博士にそっと腕を回しかけると、またしてもばしりと叩き落とされる。
「帰っていいよ、そんな気分じゃなくなった」
うちのめされて言葉を失うルドガーに、博士はとどめの一撃を食らわせる。
「それが消えるまで顔を見せないように」
――――――心臓が、止まるかと思った。
ルドガーにとって不動博士の言葉はすべてであり、絶対であり、博士を目の前にすると半ば信仰のような感情に支配される。
毎日でも会いたい、話をしたい、その考え方や感じ方を余すことなく知りたいと一途に思うような相手に、ルドガーはこれまで出会ったことがなかった。
その不動博士が、しばらく顔を見せるな、などと。
胸に鬱血した跡をたくさん抱え、貴方のことだけを思いながら、跡が消えるまでの長い道のりを過ごせと。
私にとって、それはひどすぎる罰だ。
「わ…かりまし、た、では…」
なんとかそれだけを絞り出し、ルドガーはゆっくりと扉へ向かって体を反転させた。
視線を下げると鬱血の跡が目に入る。
自業自得だ。
これは不実な私への罰なのだ。
この跡が消えるまでいったいどれだけかかるだろう。
いったいどれだけの間、博士に会えないのだろう。
重い脚を引きずりながら扉に手をかける。
「…ばかじゃないのか、君は」
背中からシャツの裾を引っ張られる感覚。
呆れたような博士の声に、振り返る。
不動博士はやはりそっぽを向いたままであり、長く伸ばした前髪で表情は隠されたままだったが、感情をにじませた声がかすかに震えている。
「こういう時は、無理矢理にでも抱きしめるものだろう…だから君はだめなんだ」
「博士」
慌てて腕を回すとやはり叩き落とされる。
ここであきらめてはいけない。
もう一度博士の細いからだに腕を回す。
そっとのぞき込んだ不動博士の目元は、うっすらと赤く充血していた。
「博士…!」
今度こそきつく抱きしめる。愛おしさがあふれだして腕の力を制御できないが、みじろいだ博士を解放する気は毛頭ない。拒まれようとなんだろうと、わたしは。
「申し訳ありません、私は不作法にも程がある、ですから」
耳元にそそぎ込むように言葉を重ね、熱い耳朶を優しくはむと、博士はぶるりと身を震わせる。
「不動博士のための作法を、教えていただきたい」
「………」
沈黙を是と受け取り、ルドガーは愛しいからだを抱き上げソファーへと導いた。
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ルドガーの大きな体にのしかかられて、その重さに安堵する。私はいつからこんな風に思うようになってしまったのだろう。
不動は深くため息をつきながら、ルドガーのはだけた胸元に手のひらを滑らせた。
なめらかな手触りに、痛々しい鬱血の跡。
自分以外の誰かが、この体に触れていると思った瞬間、頭に血が上って止められなくなった。理性と全く噛み合わない感情に体が支配されることなど、不動は今まで経験したことがなかった。
ルドガーに触れることは恐ろしい。
自分が保てなくなる。
「不動博士…こちらはいかがですか」
「……悪くない……」
低くやわらかく語りかけながら体中を撫で回されると、もうだめだった。完全に相手に委ねてしまうようなセックスなど、ルドガーと交わるまで知らなかった。
体の内側を暴かれるようなセックスも知らなかった。
知らなかったことだらけだ。
「ん…は…はぁ…っ…」
繊細で狭すぎる器官いっぱいにルドガーを受け入れ、浅い呼吸を繰り返す。
「お…おきい、な」
「誰と比べておられるのです」
ぐい、と奥まで入り込まれて呼吸が止まる。
たった一人にしか許していない、とはあえて言わないことにしている不動は、沈黙をもって応えた。そっと微笑みだけを浮かべてみせる。
「いけないひとだ…不動博士…っ」
「…あ、あ、っ……」
弱いところを突かれる度に、声が上がる。
私の中は、すべて、ルドガーに知り尽くされている。
「そこ…いい…」
「誰にでも、そうおっしゃるのでは」
「さあ…な…っ!っ!」
立て続けに弱いところばかりを狙われ、慌てて唇を噛んだ。過ぎた快感は苦痛に近い。身をよじって耐えると肩口を捕まれ、ソファーに押さえつけられ、じっと観察されているのを感じる。ルドガーは切っ先を先程と同じ場所に押しつけたまま、微妙な刺激を与えてくる。強く、弱く、もどかしい。
「ん…ん、いやだ…」
「不実な…貴方への、罰です」
びりびりと快感だけが全身を支配する。
「きみ…が、与えるのは、あまい罰だな…」
あえて誰でもいいというような言動を繰り返したのは、ルドガーがあまりに情熱的で、怖くなったからだ。
自分も飲み込まれてしまいそうで怖かった。
ルドガーに溺れきってしまえば、すべてが破綻するのは目に見えていた。研究も、家庭も、すべて破滅に向かうだろう。
こんな関係は続けてはいけないのだと、理性では判っている。
それでも細く繋がっていたいと思わせる魅力がルドガーにはあった。からめとられるように包まれ、抱かれ、自分を解放する心地よさを知ってしまった今では、知らなかった頃には戻れない。
「不動博士…私を受け入れながら、なにを考えておられるのです」
「ん…なに、も…」
いったん引いて、抜け出しそうになったルドガーを無意識に締め付ける。くすりとルドガーが笑ったのを感じた。
ゆっくりと押し込むのと同じ速度で脇腹から胸をなであげた両手は、首筋を通って髪に差し込まれ、そのままゆるくかきまわされる。
「ルドガーは…わたしの、頭が…好きだな」
「…好きですよ、貴方の全てが」
てらいなく繰り返される愛の言葉が心地よくてだめになる。髪と体内を同じようにかきまわされてだめになる。ルドガーは依存性の強い薬物のようだ。
失いたくない。
だから壊れないように、消えないように、用心と牽制を繰り返して…ルドガーの過ぎる激情が自分だけに向かないように、操作したつもりだった。自分の気持ちも、意図的に隠した。
ただ、研究のために繋がっているのだと理由を付けて、事務的に呼び出してはひっそりと関係を続けてきた…はずだった。
「は……っ……」
だが、だがどうしても今日だけは、我慢ができない。
胸に散る鬱血の跡、精液の匂い、いかにも誰かと交わってきたばかりという風情のルドガーを目の当たりにして、感情だけが膨れ上がって止められなかった。
――許せない。君は、君は私のものなのに。
「…ぁ…ルド…も…誰にも…」
触らせるな。
許すな。
こころもからだも。
「っ…きみは、わたしのもの…なんだ……っ…」
こらえきれずに涙と共にこころをこぼした。
とうとう言ってしまった。
それがどれほど自分勝手な望みか、十分に承知している。
「博士…不動博士、私のすべては貴方のものです、博士」
こぼれた涙を吸い取りながら、熱に浮かされたように、ルドガーも口走る。
熱く叩きつけてくる情熱。めまいがするほどに。
「ん、あ、ぁ…ぅ…」
深すぎる場所で繋がりながら、しかし互いに理解もしている。
視界の端で鈍く光る左手の指輪。
君は私には求めない。
君のものであれとは、口に出すことはない。
だから君のものであるとは、私も口にしない。
悲しい嘘は嫌いだ。
「ぁ…あ、あ…くる…!」
まっ白な世界が近づくのを感じる。
「博士…っ…あぁ、わたし、も」
激しくなるばかりの律動に、内部で膨張するルドガーに、世界が明滅を繰り返す。
こんな世界に連れていってくれるのは君だけだ。
強烈なインスピレーションを与えてくれるのは君だけだ。
「飛ばしてくれ…っ…真っ白に…あ、あ、あ―――」
「博士…!」
きみだけだ。
くちびるの動きだけで、そう伝える。
のぼりつめる瞬間に、きつく目を閉じる君の癖を知っていて。
ああ、いつまで隠しておけるだろうか。
それ以上不実な言葉を口から漏らさないように、不動は左手の指輪に歯を立てた。
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「―――おはようございます、不動博士」
昼間のオフィス、やわらかな日が射し込む観葉植物の隣で、ルドガーは不動博士にそう声をかけた。
いつもは二つほど外しているシャツのボタンをきっちりと一番上まで留め、ネクタイを締めた白衣姿。
昨夜の情事の跡などどこにも存在しないように。
「おはよう、ルドガー…だが昨日の言いつけを忘れたのか?」
片手でコーヒーをすすりながら、不動博士は無造作にルドガーのシャツのボタンを一つ外して、隙間をのぞき込む。
「は…博士、何を」
くっきりと残った鬱血の跡に、不動は咽で笑う。
「くっくっ…だめじゃないか、これが消えるまで顔を見せないようにと言っただろう」
「不動博士…」
心底まいったという顔をしたルドガーに、笑いがこらえきれない。
「ははは、なんて顔だ。冗談だよ、ルドガー」
「まったく…心臓が止まるかと」
すごい速さだ。お聞きになりますか。
そう言いつつぎゅっと押し付けられて、厚い胸に頬を寄せるかたちになる。このシャツの下に昨夜自分がつけた印がある。
不動の心はざわめいた。
研究員の鎧の下に、情人のしるしがあるというのは背徳的でいい。誰にも見せないようにと言いつけてもいい……昨夜の件で、タガが一つ外れてしまったようだ。
だがそれすらも楽しいと思えるような心の余裕を不動は取り戻していた。シャツの上から覚えのある場所を指先で辿ってゆく。どうせ一度は口にしてしまったのだ。自分のものだと主張するのも悪くない。
もう二度とあんなルドガーを見ないで済むように。
「…そうだな、せっかくだからこの跡が消えないうちに上書きしてみようか」
「!博士…!」
消えかけた頃にまた、と暗に込めた意味を、ルドガーは正しく受け取ったようだ。苦しいほどの包容で返答される。
次の約束めいたことを口に出すのは初めてだった。
「もちろん印をつけていいのは私だけだよ、…君は私のものだからね」
そう言って、不動博士はいたずらな少年のように笑ってみせた。
不動博士がルドガーにべたぼれじゃないかー!!
書いた自分が一番びっくりしました。
ガチ不倫ですみません…。
研究も家庭も大事なので好きとか言えないけど誰にもあげたくないという大変わがままな不動博士が萌え!
ルドガーはまさか博士が自分を好きだとか、全く思っていないので、他の人に迫られたら、どうせ自分の一番好きな人は振り向いてくれないしな…となげやりになって受け入れてしまう時もあるんでないかと思う。
不動博士が大事すぎて他はどうでもいい代わりに不動博士に従順すぎるルドガーが萌えです。
精神的に上げ下げされるのがたまらないんだそうです。なんというドM。
そのうち神様に入り込まれてドSに変化してほしいですはぁはぁ