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海の向こうの学会で

若干性的。R16くらい。ルド不







遊星粒子とその原理を応用した永久機関、モーメントの実用性についての論文が発表されてしばらく。
本年度の物理学会で不動博士の論文が栄誉ある賞に輝いたとの連絡を受け、こうしてアメリカで行われる表彰式までやってきた。不動博士は大げさなことは嫌い、連れてゆくのは助手だけで事足りると(奥様は妊娠中なので大事をとって日本に残られた)博士とルドガーとレクスの3人だけでやってきた…のはいいのだが。

イタリアのカルロス博士、ドイツのシュミット博士、フランスの、ロシアの、アメリカの…
次々とやってくる権威たちの不動博士への祝辞の多さに、ルドガーは正直閉口するばかりだった。
握手はまだいい、チークトゥチークもまだよしとしよう、だがどうだ!ロシアのお国柄だかなんだか知らないが、長々と不動博士に口づけを――もちろんくちびる同士だ――
「我慢ならんな…」
「何か言いましたか、兄さん」
心の内だけで呟いたつもりが、いつの間にか口からでていたようだ。ルドガーは口元を引き締めなおした。
ダークグレーのロングスーツで少しばかりめかしこんだ不動博士は、胸元に招待客としての小さなブーケをあしらわれ、華やかなことこの上ない。
東洋人特有の年齢不祥さで、実際の年齢よりもずっと若く見える不動博士は、長老のような各国の博士たちには息子か孫のように映っているらしく、どこへ行っても捕まっては親しげに話しかけられていた。遊星粒子の可能性、モーメントの実用化へ向けての提言、賞賛、忠告、その他諸々…
――そんなことは私の方がずっと有意義に話し合えるというのに。
「ちっ、また腰に手を回した、あのイタリア男」
「兄さん、声、漏れてますって」
ルドガーと弟のレクスは黒のスーツでびしりと身を固め、助手と言うよりはSPの様相を呈している。壁際に立ち、博士を目線で追ってはいるが、基本的には待機中だ。
――ああ、博士の側にいたなら、誰の手も触れさせないというのに。
ルドガーの我慢も限界に近づいた頃、不動博士がふっとこちらを見て、手招きした。
「お呼びだ」
たくさんのドレスとスーツの隙間を縫って、不動博士の元にたどり着く。
さりげなく、両側を固めるように立ち位置を調整する。ゴドウィン兄弟は二人とも飛び抜けて背が高く筋肉質なので、小柄な不動博士を挟むと博士の華奢さが際だって見えるうえに、両脇が大変威圧的だ。これは話しかけづらい。なるほどそれで歓談の間、不動博士は兄弟を遠ざけていたのかとルドガーは思いなおした。
「私の右腕として働いてくれている、ルドガーとレクスです。ああ、二人だから両腕かな? 二人ともとても優秀で…モーメントの研究を行う上でかなり助けられているんです。先生方どうぞ、お見知りおきを」
他でもない不動博士にそう紹介されて、ルドガーとレクスの心は舞い上がった。この会場にいる誰よりも、不動博士に心酔し、なんとかして助手の位置にまでたどり着いた二人だ。年季が違う。
各国の有名な博士たちに紹介されて、次々と握手をする手にもつい力がこもるというものだ…。


「ルドガー、ミハイロフ博士とカルロス博士の手、強く握りすぎだったな、二人とも涙目だったぞ」
階下のパーティー会場からそのままエレベーターを上がり、招待客に割り当てられた部屋に向かいながら、不動博士がくすくすと笑いをこぼした。
「さて、そうでしたか」
不動博士に必要以上にべたべたしていた失礼な輩にはつい強く握手してしまったような気がするが、まあ、気のせいだろう。
「くっつきすぎだってぼやいてましたよね、兄さん」
レクスもくすくす笑いながらそんなことを言う。
ああくそ、博士にばれてしまったではないか。
「まあ、ある意味印象的だったかもしれないな
助手を紹介するのも大切だって、私も昔先輩に教わったんだ。次は、君たちがああいう場で表彰されるのかもしれないのだから…ルドガーも新しい論文、サイエンス誌に送っていたろ?」
とりとめのない話をしていると、もう割り当てられた部屋に着いてしまった。
ああ、もっと博士と話したかったが。
ルドガーは心なしかしゅんとしながら、レクスとのツインルームのカードキーを取り出した。
博士は当然シングルの別室だ。
「では…」
「ちょっと待ってくれルドガー」
不意に後ろからかけられた声に振り返る。
「…?」
「もう少しだけ飲みたい気分だ、付き合ってくれないか」
「もちろんです!」
博士からの嬉しすぎる申し出に、是も非もなく飛びついた。

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レクスは基本的に飲めないのと、時差にすっかりやられてしまってダウン寸前だったので先に寝かせることにして、博士と差し向かいでグラスを傾ける。
最上階のバーラウンジには人影もまばらで、柔らかく落とされた照明の中、夜景だけがきらきらと眩しい。
「ああ、今日はさすがに疲れたな…普段、こんなにたくさんの人と話したりしないものだから、脳の別の場所を無理矢理使った気分だ」
カラン、とグラスの氷が鳴る。
「終始にこやかに対応しておられたではないですか、さすが不動博士だと思いながら見ていましたよ」
「で、くっつきすぎだと言っていたのはどういう意味だい?」
ゴホッ、ゲホ、ゲホッ。
「わっ、大丈夫かルドガー」
「へ、変なところに入ってしまったではないでゴホッ」
博士の胸元のポケットから取り出したハンカチーフが、こぼれた酒を押さえるように吸い取ってゆく。
「博士、ハンカチが…」
「ハンカチより君のスーツだろう、優先順位を考えろよ」
いや、私には自分のスーツなどより博士のハンカチーフの方が大切なのですが。
そう思いつつ博士に何かしてもらえるというのは天にも昇る心地だったので、おとなしく動かずにいた。
「ふふ、君は本当に大型犬みたいだな。頭が良くて、忠実で、どこかかわいいところもあって…」
ハンカチが、もとい不動博士の手が、胸元から腹部、大腿部へと移動してゆく。こぼれた酒を拭ってくれているのだが、妙にむずむずした気分になる。
「犬…ですか」
「頼りになると言っているんだよ」
ぴたりと寄り添ったまま、ごく近距離で目線が合う。
今日見かけたどの博士たちよりも、親密な距離間。

「…戻ろうか」
不動博士の碧色に揺らめく瞳に釘付けになったまま、導かれるようにルドガーは立ち上がった。

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1231号室。
レクスとルドガーの部屋の方がエレベーターから近かったので、博士もレクスの様子を見に立ち寄った。ぐっすり眠る弟と、それを優しい表情で覗き込む不動博士。なんと幸せな風景だとルドガーは思った。
「ああ、よく眠っているね…今日はたくさん歩かせてしまったかな…ルドガー、君もゆっくり休んでくれ、明日もまた早いだろうから」
「…はい」
――これで今日は終わりなのか。まあいい、二人だけの時間を少しだけでも持てたのだから…
レクスの枕元から離れ、入ってきたドアへと向かう不動博士に、さりげなく道をあける。
――だが、最後にこれだけは確かめておかなければ。
ドアを開きかけた不動博士を、そっと捕まえ、力を込めずにそのからだを引き寄せる。
博士はさしたる抵抗も見せずに、腕の中に収まった。
「なんだいルドガー」
あまりの近距離に上目遣いでこちらを見ている博士。
胸元の花が揺れ、凶悪なまでにルドガーの目をひきつける。
「…おやすみのキスをしても?」
思い切ってささやきながら距離を縮める。
不動博士は薄く微笑んで、左手でそっとルドガーを止めた。くちびるに冷たい感触。薬指に指輪が光っている。日本を出る前からずっとはめたままの、エンゲージリング。
「挨拶のキスは、よろしいのではないのですか」
たくさんの博士たちにその唇を許して、私には――
「挨拶ですまないだろう…君の場合は」
「……」
その通りだ、触れるだけではきっと止められない。そのくちびるを暴いて、入り込み、奥深くまでまさぐってしまうだろう。だが、だが、私は―――
胸の奥が黒い渦のように回転を始める。深く、沈み込んでいくような感情の渦。
「おやすみ」
ルドガーの頬にそっとくちびるを触れさせて、不動博士はルドガーの腕と部屋の扉をすり抜けた。
ゆっくりと扉は閉まり、オートロックの無情な音が響く。
「…っ…」
私は助手であり、部下であり、いや、貴方が言ったとおり…貴方の犬だ。忠実な犬なのだ。
離れることも、断ることも、無理強いすることも出来はしない。なんだってかまわない、貴方の側にいられるならば。
絶望の深さと歓喜の高みの狭間で、ルドガーは頭を抱えた。

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頭から叩きつけるような熱いシャワーを浴びながら、ルドガーは煩悩を追い払う。
実のところ不動博士と何度か性的な交渉を持ってはいるが、それはすべて研究を円滑に進めるために求めた刺激のひとつであって、不動博士にとっては誰でもよいことだったのだ。ただ、自分がその機会を逃さずつけ込んだというだけで。
キスをしたことなど一度もない。
「ふー………」
それでもよいと飛び込んだのは自分なのだから、そこまでで満足するべきだ。そう結論づけて、ルドガーは湯船に深く沈み込んだ。

「…ルドガー?」
がちゃりとバスルームのドアが開く。
何事だと身を起こす間もなく、入り込んできた小柄な影。
「ふ、不動博士!?」
一糸まとわぬ姿で入ってきたのは先ほど別れたばかりの不動博士だった。なぜ、貴方がここに。そもそもキーはどうしたのだ。
様々な疑問符で頭がフリーズしている間に、不動博士はざっと体をシャワーで流し、湯船に入ってくる。
「いやあ、自分の部屋で風呂に入ろうと思ったら水しか出なくて…時々あるんだよなあ、外国って、こういうの。君たちの部屋は無事でよかったよ」
全部脱いでから水しか出ないって分かるのは虚しいものだな、ははは
などと笑いながら膝の上に向かい合うように座ってくるものだから、ルドガーは本年度最高潮に混乱した。
「博士っ…その、鍵は、閉まっていたと思うのですが」
ああ、どうでもいいことを聞いてしまった!そんなことを聞きたいわけではないのだ!
「いや、こんなこともあろうかとレクスの所から予備のカードキーをこっそり借りていったんだけど、やっぱり役に立ったな」
「………そう、ですか」
もう何を言っても無駄な気がしてきた。ルドガーは脱力しきって湯船に頭の半分ほども沈みかけた。
「それに、やっぱり一人だと寂しくなってしまってね。せっかくこうして君たちと…君と、一緒にいるのに」
「ふど…」
不動博士は、その碧い瞳でじっとルドガーを見つめていた。先ほどラウンジで見せたような、揺らめく色合いをしている。
「なんだか逆に眠れないから、少しだけ君と触れ合えば、眠れるかもしれないと思って…」
「博士」
「わっ」
湯を波立たせながら引き寄せて、同じ方向を向いて自分の上に座らせる。密着する肌。
「それは…私が存分に触れても良いということですか」
なめらかな背中と首筋のあわいの突起にくちびるを触れさせながら、両手で不動博士の肩から腕をたどる。
「…ああ、好きにしていいよ」
びりびりとした幸福感に灼かれながら、前腕から手の甲、指先へと進み、そのままかぶせるように指を絡め。
ルドガーはそこであることに気づいた。
「…博士、指輪は…」
「風呂にまで…して来ることはないだろう」
博士が、指輪をしていない。自分の前で、指輪を外したことなど、なかった貴方が…
「不動博士…!」
思わず腕ごと博士を抱きしめていた。
歓喜の極みだ。この後どんな絶望の淵に沈もうと、今は歓喜の極みに、いる。
博士がルドガーの上で身じろいだ。
「はは…元気だな、ルドガー。生物学的に湯の中では硬化しづらいと言うのに」
当然のことながら、不動博士が入ってきた瞬間から、ルドガーの男性的な機能は活発に働いている。世界中で一番焦がれている相手を目の前にして、何も感じないでいろという方が、難しい。
「申し訳ありません、博士よりは若いもので」
「言ったな…」
互いに手を伸ばして探り合う。湯の中だというのに、博士自身もかたく張りつめている。触れてもらえると、触れさせてもらえると思うだけでまた昂ぶった。
「はっ…待った、ルドガー」
「何ですか」
息を切らして、朦朧としたこの状態で、今更何を制止するというのだろう。

「レクスを起こさないように…静かに頼むよ」
――それは、こちらとしても願い下げだな。博士のこんな姿、たとえ最愛の弟にだって見せたくはない。
そう思いながらルドガーは不動博士の右目にくちづけた。



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結果的に言えば、やはり湯船の中での性的交渉には無理があったようで、互いに手で触り合ったあたりで不動がダウンした。完全にのぼせてしまったのだ。
ルドガーは急いで不動を湯から引き上げ、バスローブでくるみ、ベッドへ横たえる。
「ふう…ふう…だらしがないな、あれしきでのぼせてしまうなんて…やっぱり年かな」
「無茶をしないでください不動博士!ああくそっ、博士の脳細胞にいくらかでもダメージを負わせたかと思うと…っ」
ルドガーはバスローブに包んだ巨体でばたばたと右に左に移動しては、冷えたペットボトルを不動の首筋や脇に挟み、血流から脳を冷やそうとしている。
……やっぱり大型犬じゃないか。いや、ライオン、かな…。私だけになつく、優秀で誇り高い、金色の毛並みの猛獣……
「…悪い気はしないな」
「何かおっしゃいましたか博士」
心配そうにのぞき込んでくるルドガーの金髪を撫でながら、不動はさりげなくその顔を自分に近づける。
「いや…君がいてくれて良かったと思っているだけだよ」
そんな一言で顔を真っ赤にして、目線を泳がせるルドガーに、笑いをこらえることができない。
――ああ、ほんとうにかわいいな、ルドガー…君が思っているよりも、私が君を気に入っているってこと、きっと気付いていないだろうけど…。

   「続きはまたの機会にな」
   そう言って、博士はルドガーの頬に軽くキスをした。

翌朝レクスが起きたら隣のベッドに不動博士が寝ていて「えー!!!」てなればいいな。
こんなふうに穏やかなときがあってもいいんじゃないか…MIDS…夢が広がります。
まあ結局不動博士のモーメント開発中止宣言で、心酔していた分、ルドガーがおかしくなってしまうんですけど…。
だがそこがいいなー、と。
不動博士は30代で、ルドガーはギリギリ20代後半くらいが希望。年下わんこ攻ー!