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Happy Valentine's day!

カタタタン、タン、タタン……
軽快にキーを叩いていた指が止まる。
遊星の目は、画面の右下に吸い寄せられて止まった。
気付かなければよかった―――そう思っても後の祭りだ。
ディスプレイの右下、点滅する日付に、思い出さずにいられなかった。
今日が何の日であるか、を。


サテライトは基本的に物資が少ない。
それぞれのイベントごとに、躍起になって必要な物をかき集めてくる者もいれば、
何事もなかったように平素な一日を送る者もいる。
遊星はどちらかといえばイベントなどはすっかり忘れる方だった。
そのかわり、うるさくイベントをこなそうとする幼馴染が一人、いる。
自他共にサテライトのキングと呼ばれるその男は、大荷物で帰ってくるはずだ。
特に、こんな―――バレンタインの日には。


「遊星、そこを空けろ」
案の定たくさんの包みを抱えて帰ってきたジャックに、
遊星は一瞥をくれただけでマグカップに湯を注ぐ作業に戻った。
「今手が離せない、自分でやれよ」
テーブルの上はジャンクだの雑誌だのが積みあがっている。
それをどけて荷物を置くのはちょっとした労働になるだろう。
ジャックはそれらを蹴り落として、両手いっぱいの荷物を投げ出した。
カラフルな小箱が散らばって、ひとつふたつはソファーに落ちた。
「行儀が悪いな」
「…おまえに言われたくはないな、遊星」
まあ、確かに散らかしていたのはおれなんだが。
適当に湯を注いだマグカップを二つ用意して、一つをジャックの前に置く。
ふわりと上がる湯気に、ジャックがほうとため息をついた。
「ありがたい、外はだいぶ冷え込んでいてな」
荷物を抱えていては、両手をポケットに入れることもできなかっただろう。
ジャックの指は赤くなっていた。
デュエリストの、きれいな指だと、思う。
その指先が、カップを包み込むのを見ながら、遊星は言った。
「どうしたんだ、その大荷物」
「何故だか会うやつが皆、わたしてきたのだ」
遊星は自分のマグカップから黒い液体をすする。いやに熱い。
「バレンタインというやつだろう」
サテライトでは女は少ないが、無駄に女に優しいジャックのことだ
皆こぞって手に入れてきたのだろう、想いを込めたチョコレートを。
「もうそんな時期か。堅物のおまえにしてはよく知っていたな」
そう言いながら、ジャックもマグカップを傾けた。
「…ん?」
遊星は目を伏せる。
―――やはり、やめておけばよかった。
「…チョコレート、だな」
だいぶ前に手に入れてあったインスタントのホットチョコレート。
奥にしまいすぎて探し出すのに部屋をめちゃめちゃにしてしまった。
多少の後悔をしながらマグを傾ける。
ジャックはにやにやしながらこちらを見ている。
「偶然だ、ちょうどコーヒーを切らしていたんだ」
手の中のマグを隠すようにしながら、一気に飲みきる。
熱い。
やけどしそうだ。
そっとマグカップをテーブルに戻すと、その手を掴まれた。
ジャックの手のひらも、もう熱くなっている。
「嘘が下手だな、遊星」
至近距離で声が聞こえた。
視線を上げる。
もうすでに、視界のほとんどを金色が占めている。
「ジャ…」
口を開くと同時に、柔らかな感触。
するりと入り込んできて、舌先が触れる。
「ふ…」
思わず、鼻から息を漏らすと
感じる……チョコレートの香り。

ああ、ばれてしまった。
おれのカップの中身は、コーヒーだったと。


たっぷり口の中を舐めまわしてから、ようやくジャックが離れた。
「偶然ではないだろう、特別だと言え」
どこまでも自信過剰で、俺様な奴…
だが、今日に限っては、おれの負けだ。
全てそのとおりなのだから。
「そう…だな、特別に用意した」
ジャックに手を引かれるまま、ソファーに並んで座る。
「どうした、ずいぶん素直に答えるな」
「甘くもなるさ、チョコレート味のキスだ」
半分ヤケになって答えると、ジャックは嬉しそうに笑った。
「ははは!いいだろう、ならばもう一つくれてやる」
そう言っておれの肩を抱いて、近づいてくる。
すかさず手のひらを挟んで止めた。
「調子に乗るな……甘い物は苦手なんだ」
顔半分を抑えられたジャックの目が見開いて、ついで細められた。
鼻と口が隠れている分、紫の目がいやに雄弁だ。
そっと手首を掴んで、優しく外される。
「俺は、甘いのも好きだがな」
二度目のキスは、コーヒーフレーバーのチョコレート味だった。


「……おい、ちょっと待て」
そのまま事を始めようとするジャックに、さすがに慌てて止めた。
まだ昼間だ、いつ誰がやってくるか分かったもんじゃない。
「この大量のチョコレートはどうする」
「ラリーにでもやるとしよう」
即答するジャックに、少しだけ胸が痛んだ。
それぞれ、想いを込めてジャックに渡したものだろうに…
「甘い物は好きなんじゃなかったのか」
「なんだ、全部食べろとでも言うのか」
「そうだ、もらった物だろう」
真面目に答えると、ジャックは呆れたような顔をしてため息をついた。
「こんなに食べては胸焼けする。一つあれば十分だ」
そう言って、ひざの上におれを抱き上げた。
……おれを甘いものだとでも言うつもりか。
ジャックは俺を抱き上げたままにやにやしている。
こうなったらてこでも動かないのを、長年の付き合いでよく知っている。
「ふう…」
チョコレートは大量だが加工すれば何とかなるだろう…後でみんなでいただくとしよう。

目を閉じたままジャックに身を預けると、まだかすかに甘い匂いがした。
ジャックの手のひらが腕から肩、首筋を撫であげるのを感じる。
上向くと近づいてくる、チョコレートの甘い香り。
「…仕方がないな、胸焼けしないようにしろよ…」
せっかくの日だ、数ある中から選ばれた身としては、せいぜい甘くなってやろうと思う。

あま〜〜い!!!
海闇は月刊デュエリストでべったべたのバレンタインをかいたので
ジャ遊もやりたいな…と思ったらなぜかSSになった。
よく分からないところ多いですが…雰囲気で…