------「また来たのか言峰…君も懲りないな」
「そろそろ与えた魔力も枯渇した頃だと思ってな…邪魔をする」
土間を備えた玄関から勝手に上がり込めば、仕切りの少ない日本家屋特有の隙間風が足元を抜けていくばかりで、うすら寒い、と言峰は思った。
寒々とした畳の部屋でひとり、ただ死を待って座する男をなぜか自分は見放せずにいる。
有無を言わせず抱き寄せれば、また細くなったからだは軽々と腕の中に納まってしまってぞっとした。
死期が迫っているのか…と思いながら切嗣の薄い唇にキスをひとつ落とし、舌先から魔力を渡す。
両掌で着流しの細い体をさすり、治癒魔術をかけては弱った内臓を保護した。
「は…士郎が帰ってきたら…困る…」
相変わらず、この男のキスはあまい。
切嗣が身じろぎながら吐息と共に苦情を吐き出せば
「他のことを考えている余裕があるのか?」
と一言で切り捨て、強く引き寄せられて更に深くを探られる。
撫でさすられるからだが掌の行方を期待しているのがわかって、切嗣は視線を伏せた。
言峰に与えられる魔力はいつもあまくて、それは自分が弱っているからだ、と言い訳して身を任せた。
だって言峰の治癒魔術はとても気持ちがいいんだ。
事後のけだるい空気の中、言峰は髪をふつりと一本抜き、魔力をこめて切嗣に渡した。
互いの死期を知らせる術だと知ったから試してみようと思ったまでだ。
この男の命はもういくばくもないかもしれない――
それは治療を施している言峰が一番よく分かっていたことだった。
「左の薬指にでも巻いておくんだな」
「は…」
ぽかんと口を開けた切嗣の顔はまるで年相応に見えない。
「部下とやっていただろう?あれは小指だったか…」
「な、なんで知って…いや…なんで君とそんなことを」
「どちらとも闘ったからな、そのくらい見て取れる。――いらなければ捨てろ」
それ以上何もいわずさっさと身支度をして帰る神父に、残された切嗣は頭を抱えるしかなかった。
手の中で存在を主張する髪がひとひら。
もうよく馴染んでしまった心地のいい魔力に包まれて揺れている。
「…僕にどうしろっていうんだ……」
切嗣の呟きは風に紛れ、誰にも届くことはなかった。
――――――数日後
深夜の言峰教会に黒いコートの男がやってくる。
死神の様相を思わせる男は真っ直ぐに礼拝堂の祭壇を目指した。
「どうした、懐かしい格好だな」
「教会に着流しというのもどうかと思ってね…
真っ黒で悪いけどあいにく正装っぽいものはこれしかないんだ」
十字架の前に佇む神父の前に、ゆっくりと歩いてくる
在りし日の魔術師殺し
(この姿に焦がれ、追い、すべてをかけて闘い、そして心臓を奪われた)
言い知れない感情が失った心臓を巡る
(この男が、私の)
「言峰」
はっと回想をさえぎられた言峰の前に切嗣が立っている。
「勝手に押し付けていかれても困るんだよ」
先日渡した髪が一本、切嗣の細くなった指先に挟まれ揺れていた。
「そうか」
まあ、勝手な押し付けだとは自覚していたのでたいした落ち込みもない。
受け取って後程炎で浄化しようと思った瞬間、もう一本の髪をくるりと左の薬指に巻きつけられる。
切嗣の魔力に彩られた、髪がひとすじ。
「こういうのは、交換しないと意味がないんだ」
「な…」
「なんて顔してるんだよ、僕だって恥ずかしいんだよ、ああもういいから早く巻けよ!」
そういう術式なんだ!と半ば叫ぶように言う切嗣の指をとらえ、左の薬指に自分の髪をそっと巻きつける。
互いの指に魔力をこめた髪で印をつける。
それはまるで。
「神前で、互いの指に印を巻くとは…まるで婚儀のようだな」
「僕も顔から火が出そうなんだ、それ以上言ったら撃つ」
懐に入れた右手がコンテンダーの銃把を握るのが見える。これは本気だ。
もう一度撃たれるというのも浪漫だなと頭の隅で考えながらちらりと切嗣を見やると
なるほど死人のような顔に赤みが差している。
(互いにそう思っているなら支障はあるまいに)
口には出さずに、指に巻かれた髪が皮下になじんでゆくのを見守ると
言峰はそっと黒いコートの背を抱いて引き寄せた。
「誓いの口付けをした方がよいのかな?」
「もう、おまえは恥ずかしいから口を開くな…っ」
そう言って切嗣は言峰の唇に自分のそれを押し付けた。
***おしあわせに!!!!***